研究科長のメッセージ

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グローバル・スタディーズ研究科  中西久枝 研究科長

21世紀の現代世界は、さまざまな危機的状況に見舞われています。第一に、民主主義や世界市民主義といったグローバルな価値の危機です。いずれの価値も、歴史的には欧米で発達し、世界的に達成すべき制度だと考えられてきましたが、今や欧米では大衆迎合主義(ポピュリズム)が蔓延しつつあります。歪んだナショナリズムや自国優先主義によって、人々は移民や難民を排斥したり、マイノリティ・グループを差別したりする行動に出ることが多くなりました。
  第二に、先進国、新興国、途上国を問わず、人々のあいだに社会的、経済的格差が年々拡大している問題があります。グローバルに展開する市場主義経済の進展によって、富める者はますます富を拡大する一方で、経済的に取り残された人々はますます貧困化するという負のサイクルから抜け出すのが困難な時代になっています。また、アメリカ第一主義により保護貿易主義が打ち出され、中国とアメリカ間の貿易戦争は日本をはじめとする先進国や新興国経済にも影を落としています。第三に、地球温暖化が進むなか、極端な気象現象が自然災害や水不足の問題や海面の上昇による水没の危険などの問題が深刻になっています。
  これらの問題は、冷戦および冷戦後の世界ですでにおこっていた多くの問題とともに、新たに浮上してきた問題です。戦争や紛争やテロ、核兵器の存在や更なる軍備増強などの問題は、古くて新しい問題としていまだに残っていますが、市場経済の波に乗った軍事産業の肥大化によって、紛争や内戦は長期化する様相を呈しています。
  このようにグローバルにおこっている諸問題は、地域に特有の問題から派生しているのみならず、地域を超えて同時並行的に広がりを見せています。これらのグローバルな課題に対処していくためには、政治学、社会学、経済学、歴史学、言語学、文学、文化人類学などのひとつの学問体系だけでは十分ではありません。これらの学問体系を総合し地域横断的な視点と新たなアプローチによる研究が、人文・社会科学には求められています。そうした研究を担うのが、まさにグローバル・スタディーズであると言えます。すなわち、グローバル・スタディーズとは、超域的かつ超分野的にグローバルな課題に迫り、問題の本質を総合的に分析し、その解決策を生み出していく学問であると捉えることができます。

批判的精神で考え、議論する

グローバリゼーションがもたらした多くの問題は、そのルーツも現象も決して一枚岩ではなく、多様かつ多重的に現出しています。それゆえに、それぞれの個別の課題は、ミクロ的に詳細に分析する必要がある一方、マクロ的かつ大局的に地球全体を見直す視座が不可欠になります。グローバル化という言説の背後には、不平等や不正義を助長する力が働いていることもあります。それらを見抜くためには、私たちはこれまで当たり前だと考えていた問題を問い直し批判的に議論する必要があります。

現場を歩き、対話する

グローバル・イシューと言われる多くの問題は、複雑で矛盾に満ちています。それゆえ頭だけで考えているとますます迷路に入りこむことにもなります。それから抜け出すには、みなさんがそれぞれ研究テーマとする問題が起こっている現場を歩き、そこで実際に何が起こっているのか、そこで生きている人々は何を考えているのか、五感で感じとることも必要かもしれません。そこから、何か新しいものが見えたり、新たな出会いが始まったりするのではないでしょうか。

つながりをつくり出す

現代の世界では、国家、社会、コミュニティのあいだに分断が進み、人々が不安や不満を抱き、孤立感を味わいながら生きていると言われています。そのような時代にあるからこそ、これまでの人との絆を維持するとともに、新たなつながりをつくり出していくことが重要です。 GS研究科では、授業やゼミ、研究会、ワークショップ、グローバル・スタディーズ学会など、さまざまなつながりの場をもうけています。本研究科の教員が主導する<奄美・沖縄・琉球>研究センターやフェミニスト・ジェンダー・セクシュアリティ研究センター、コリア研究センターなどでは、多彩な活動を展開し、大学院生のみなさんや一般市民が会する場を設けています。また、大学院生が自発的に院生会を組織し始めており、院生同志の対話、院生と教員との対話がますます進みつつあります。また、GS研究科には常時十数カ国から留学生が学修していますので、日常的に国際交流ができます。

時には大胆に、そしてしなやかに、楽しく

グローバルな課題は、決して簡単に理解出来たり、解決策が見つかる問題であるとは限りません。そうした研究を続けていくには、既成概念を壊すような勇気が必要かもしれません。時には大胆に考え、行動することも大事です。他方、辛抱強く、地道にこつこつと自分を磨きながら、でも思考はしなやかに、異なる意見にも耳を傾けることが重要でしょう。その中から、新たなビジョンが生まれ、21世紀の世界をグローバルに生き抜く知恵が生まれてくると私たちは考えています。私たちとともに楽しく語り合いながら大学院生活を満喫しましょう。



研究科長 中西 久枝