研究科長のメッセージ

厳 善平研究科長

厳 善平 研究科長

21世紀に入ってから、情報技術の進歩と普及が加速し、輸送インフラの整備も急速に進むにつれ、モノ、カネ、ヒトの国際移動が飛躍的に増えてきています。今や、時間と空間の制約を超えて人と人がつながり、地球もますます小さくなった感を禁じ得ません。一方、国家、国民、領土、主権といった古典的なレジームがほとんど変わらずに存在し、それに起因する国家間、民族間の対立や軋轢が混とんとした世界を作り出していることも紛れのない事実です。国民国家を前提とするグローバル時代において、一国または二国間に留まらない課題、すなわちグローバルイシューは常に我々の前に横たわっています。新型コロナウィルスによるパンデミックはその典型例ですが、気候変動や移民・難民、食糧、エネルギーなどもその範疇に入ると考えられます。

同志社大学グローバル・スタディーズ研究科は2010年に発足した、比較的若い独立研究科です。社会科学(政治学、経済学、社会学等)、人文科学(文学、歴史学、宗教学等)を専門とするエキスパートから構成される本研究科の中には、グローバルイシューに精通する者もいれば、一国のみまたは二国間を対象とする地域研究に長ける者もいます。グローバル時代の様々な問題を考えその対応策を探求していくことは、本研究科の大きな特徴であり強みです。院生の皆さんには、在学期間中、本研究科の持つ多様で豊富な教育資源をぜひ活用してほしいと思います。特定分野の基礎理論や研究方法をきちんと修得することはいうまでもなく、隣接する分野に関心を持ち視野を広げていくことも非常に重要です。加えて、以下の3点を心がけて学生生活をお過ごしください。

第1は、外の世界とのつながりを持とうとすることです。現場感覚を養うべく、フィールドワークを積極的に実践することはその一例です。様々な人と出会い、教科書では知りえないものを会話の中から感じ取ることもあります。「百聞は一見に如かず」は、まさにそういうことをいっているのです。また、関連学会の活動に意欲的に参加することもお勧めしたいです。研究成果を専門家の前で披露し、論文を学会誌に投稿することを通して研究能力を高めることができるからです。本研究科には、フィールドワークや学会活動を財政的に支援する制度があり、予算が許す限り、それを活用すべきでしょう。

第2は、コミュニケーションを通して真の相互理解を深めることです。コロナ禍の中、ソーシャルディスタンス(社会的距離)が感染予防策として求められていますが、当然、それは人間関係のあるべき姿ではありません。人間同士のつながりを密にし、学問や人生など何でも語り合い、議論しあえることは、暮らしを豊かにすることができるばかりでなく、それを通して新たなアイディアが生まれ、研究も刺激を受けてより優れた成果が上がるかもしれません。本研究科には、文化的バックグランドが異なり、多様な人生観や価値観を持つ若者が世界各地から集まっています。ここは多文化共生を実践する絶好の場であり、母語の違いを乗り越え、相手の立場に立って物事を考える、いわば「換位思考」の心構えを培うことができるのです。

第3は、情報を収集、分析する能力を身に付けることです。『統計学が最強の学問である』という本がロングベストセラーとなっていることからも分かりますように、社会や経済の面々を数値化し定量分析することが強く求められている今、それを使いこなせるようにすることは、情報化時代の当然の要請です。

最後に、好きな言葉を2つお送りします。1つはCool Head,but Warm Heart.(冷静な頭脳を持つ一方で、暖かい心を持とう)です。これは、経済学の祖に当たるマーシャルが経済学を学ぶ学生に語った言葉ですが、おそらく、学問を目指すすべての者が持つべき心得でしょう。つまり、物事を理性的に分析できるだけでなく、社会的立場の弱い者に暖かい感情を抱くことも必要だ、ということです。もう1つは作詞家・永六輔の「生きているということ」という有名な歌詞からです。「人は一人では生きてゆけない/誰も一人では歩いてゆけない/生きているということは/誰かに借りをつくること/生きていくということは/その借りを返してゆくこと/誰かに借りたら/誰かに返そう/誰かにそうして貰ったように/誰かにそうしてあげよう」。



研究科長 厳 善平